授業編

上演は戯曲とは違う

文芸学部 芸術学科

山下 純照 教授

演劇は解釈によって形を変える生き物

演劇作品は、書き下ろし台本から上演台本、初演、戯曲出版を経て、後の上演へと展開する。演劇の特徴は初演後も繰り返し上演可能な点にあり、その際に、戯曲にはない演出が盛りこまれるという興味深い現象が生じる。

『ハムレット』が問いかけるもの

シェイクスピア作『ハムレット』を例に取ろう。デンマーク王の突然の死後、弟クローディアスが王位を継承し、わずか二か月で兄の妻ガートルードと結婚する。困惑する王子ハムレットの前に父の亡霊が現れ、毒殺の真実と復讐を告げる。一方、ノルウェーの王子フォーティンブラスは、父王がハムレットの父に殺されたことへの復讐を企てている。彼の決断力に富んだ行動力は、優柔不断なハムレットと対照的である。亡霊の告白を受けたハムレットは、復讐への義務感と懐疑心の間で揺れ動き、狂気を装う。劇中劇によってクローディアスの罪を確信するも、行動できず「生きるべきか死ぬべきか」と自問する。フォーティンブラスの断固たる行動を目撃し、自らの躊躇を深く自省する。悲劇は加速する。ハムレットは誤ってポローニアスを殺害し、その娘オフィーリアは精神に異常をきたして溺死する。ポローニアスの息子レアーティーズはクローディアスと結託し、毒剣を用いた決闘を仕掛ける。最終幕で、両者とも毒剣に倒れ、ガートルードは毒酒を飲み、クローディアスも殺害される。まさにその時、フォーティンブラスが軍を率いて到着する。ハムレットは友人ホレイシオに真実を後世に伝えるよう託し、フォーティンブラスに王国を委ねて息を引き取る。

セリフと見た目のギャップを意図的につくる演出も

この作品を2015年に演出した蜷川幸雄は、フォーティンブラスを、戯曲で描かれる勇敢な若者のイメージとは懸け離れた、上半身裸で痩せ型の、無気力そうな若者として登場させた。もっとも、台詞では確かに「勇ましい若者」と呼ばれているため、戯曲の改変ではなく、台詞内容とビジュアルの演出のあいだに、意図的な食い違いを生じさせたのだ。

演劇を通じて、時代の息遣いを映す

この演出は蜷川の2015年時点での思想を表している可能性がある。おりしも安倍内閣による安保関連法案が出される前だった(上演は半年前だが、話題にはなっていた)。勇ましく戦争に向かうフォーティンブラスの姿を、戯曲どおりに舞台化することに異和感があったのだろう。このように、演劇は戯曲から距離を取ることもある。そこには芸術の自由がある。

高校生へのメッセージ

多ジャンルの話を聞きながら、深く掘り下げたい世界を見つけるのに適した学科です。東京芸術劇場の次期芸術監督になる岡田利規の本(何でも良い)を推薦します。お勧めの勉強法は活字を膨大に読むことです。スマホの画面は瞬間の情報量が小さいため、本で読みましょう。高校生で経験した方が良いものは、失恋です。成長しますよ。

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