大人になっても相手の視点に立てない?
他者の視点から物事を見ることを視点取得といいます。他者の気持ちを理解する(共感する)ためには、視点取得という認知過程(心の働き)が必要です。一般に、乳幼児は自分の視点からしか世界を見ることができませんが、発達とともに脱中心化して、小学生の頃には視点取得ができるようになります。しかし、大人になっても自己中心的な視点にとらわれて、相手の視点に立てないことはないでしょうか?
相手の視点を意識することの難しさ
例えば、「自分のおでこに『E』の文字を書いてください」と言われたとき、あなたはどのように「E」の字を書くでしょうか?心理学のある実験によると、相手の人から見て「E」と見えるように書いた人は18%だけで、カメラが置かれている(他者の視点を意識しやすい)条件では55%になったそうです。大人でも、「自己中心的」が普通で、何か手がかりが示されたり、意識して考えたりして初めて、視点取得できると思います。
自己の視点にとらわれる「わたし」
別の実験では、反対側まで見える棚をはさんで指示者と行為者が向き合い、指示に従って棚にある物を移動するとき何を見るかを調べました。棚は区画に区切られ、いくつかの区画は板でふさがれ、指示者からは見えないようになっていました。詳しい手続きは省略しますが、指示者が見えない区画の物を指示することはないはずですが、関連のある言葉を聞くと行為者は、自動的にそれを見てしまったのです。すぐ後に、本来の指示対象物を確かに見るのですが、そのためには時間がかかりました。この結果も私たちが自己の視点にとらわれやすいことを示しています。
人の心を読むには、いくつものハードルがある
今の実験をした社会心理学者のエプリーは、相手のことを考えようという意欲に加えて、考える時間の余裕がないと視点取得は難しいと言います。そういった限界を誰もが持つのだから、私たちはもっと謙虚になった方がいいとも説いています。自信過剰にならず、他人の視点は簡単には読み取れないと考えましょう。また、自分の視点を理解してもらえなかったとしても、相手に何か大変なことがあって、余裕がなかった可能性も考えましょう。