「日本美術史」って何だろう?
「日本美術史」とは、その名のとおり、「日本」の「美術」の「歴史」ですが、高校までの「美術」や「歴史」の授業では、学ぶ機会がありません。日本美術史は、「日本の美術」が作られ、鑑賞された「歴史」を学ぶ学問です。まず、日本美術史で大切なのは、作品を丁寧に見つめること。次に、作品の特徴や自分の考えを文章にしましょう。美術の造形を言葉に置き換えることで、何がわからないのかも明確になってくるからです。
教科書に載っている「十便十宜図」
ここでは、日本史の教科書に載っている「十便十宜図」という作品を取り上げます。「十便十宜図」は、江戸時代の文人画家である池大雅と与謝蕪村が10点ずつの絵を描いた合作です。まずは、池大雅が描いた「釣便図」を叙述しましょう。絵の中には3人の人物が描かれていますが、それぞれ年齢はいくつくらいで、何をしているのか、一つ一つを言葉にしてみます。蕪村の「宜夏図」についても同様です。木に囲まれた家の中に男性が一人座っていますが、片肌ぬいで、何をしているのでしょうか。
絵画と文学の関係
ところで、この十便十宜図の中には、文章が書かれています。次に、この文章を読んでみましょう。これは、中国の李漁という人が作った漢詩で、みずからの庭園の10の「便利なところ」(十便)と、10の「よろしいところ」(十宜)を詠んだものです。つまり、大雅や蕪村は、この先行する中国の漢詩(文学)を絵画化したのですが、絵と文学の内容を比較してみると、必ずしも一致するわけではありません。文学に書かれていないことが、絵の中に描かれている場合もあり、逆に絵に描かれていないことが、文学から読み解ける場合もあるのです。
違いを比べることで読み解けてくる
そもそも、文学で表現できることと、絵画で表現できることは、全く異なります。画家は、そうした違いをよく理解して描いているので、私たちも、違いやズレをきちんと比較する必要があるのです。絵をじっくり見つめ、さらに絵の元になった文学を読み、その違いを比べることで、はじめて、文学とは異なる、「美術」の表現や鑑賞のあり方が、少しずつ読み解けてくる。それが、「日本美術史」の面白さともいえるでしょう。