病院を選ぶための情報が少なすぎる!?
皆さんは病院を選ぶ時に、広告や情報がないので困ったことはありませんか。実は病院では広告が厳しく制限され、病院の名称・所在地・診療科・手術件数等に限定されています。このため、治療成績の比較広告や「生存率は最高水準」といった広告表示は禁止されているのが現状です。これでは、病院を選ぶための情報が不足してしまいます。スマホや外食などの通常の財・サービスでは広告が商品特性を伝え、市場に多くの情報を提供します。
原因は医師と患者の間にある知識の差
なぜ日本政府が広告を規制しているのかの理由を経済学で考えてみましょう。経済学では市場で取引をする売り手と買い手の持っている情報が偏っていることを「情報の非対称性」と呼びます。医療サービスの売り手である医師と買い手である患者の間には医学知識に大きな「情報の非対称性」があります。このような市場では、患者が提供される医療サービスの内容を理解できなかったり、過剰な医療を間違えて受けてしまったりといった問題が起きやすいのです。この問題を「市場の失敗」と呼び、病院が行う広告を日本政府が規制している理由です。
誰が「信頼できる情報」をつくるのに適しているか
経済学はこのような状態に対する解決策も提案しています。中立的な第三者が信頼できる情報を提供する「情報生産」が行われれば、患者はこの情報を広告代わりにして合理的に病院を選ぶことができるでしょう。しかし、この情報生産には高額な費用が必要になります。なぜなら、患者の命を救うような信頼性の高い情報の生産には、医学に対する専門知識や膨大な治療データを収集・分析するための費用が必要だからです。
このような「情報生産」は英米では実際に行われています。米国のNY州ではCABG(冠動脈バイパス)手術の患者死亡率を州内の病院ごとに公表しています。さらに、病院内の医師別の死亡率をも公表しています。このような価値の高い情報を生産することにより、患者はより死亡率の低い病院や医師に集まるので、州民の死亡数を抑制できます。この死亡率は複雑な統計処理を行っており、情報生産のための多額の費用は税金で賄われています。英国NHSでも英国民に分かりやすい記号で病院の評価という情報を生産して公開しています。この情報生産のためには、病院のデータと住民データを連結したデータベースの構築など、膨大な費用を政府が負担しています。
経済的に中立な立場が課題解決のカギ
このように、中立的な政府が価値の高い(命に直結する)情報を生産すれば、情報の非対称性が強い医療分野でも市場の失敗を回避することが可能になります。これが、経済学の提案する解決策なのです。
