授業編

小説をめぐる憲法問題-モデル小説はプライバシーの権利を侵害しうるのか?-

法学部 法律学科

西土 彰一郎 教授

争いなき世界には、公正なルールあり

人間の生きる世界では、常に争いが絶えません。争いを解決する方法の1つとして、事前に定められたルールの公正な適用を裁判所にお願いすることが考えられます。

モデル小説におけるプライバシーの権利の鍵は、当事者のまなざし

ここでいう公正とは、当事者の個人の尊厳に重点を置いた上での紛争の解決を目指すことです。そのためには、事件に深く立ち入り、当事者のまなざしを受け止めて、「創造的な」法的判断を行っていくことになろうかと思います。ミニ講義では、「モデル小説はプライバシーの権利を侵害しうるのか?」をテーマとし、「創造的な」法的判断を求める事件を素材にして、当事者のまなざしを受け止めることの意味を考えました。

「表現の自由」はどこまで許されるのだろうか?

モデル小説とは、実在の人物の人となりや実話を題材にして書かれた小説を指します。モデル小説も、小説である以上、作者の想像力の産物である虚構からなる部分もあります。しかし、実話を題材にしていますので真実の部分も含まれており、いわば虚実織り交ぜて話が展開することになります。したがって、この実の部分を捉えて関係者のプライバシーの権利(私生活をみだりに公開されない権利)を害しうるともいえそうです。こうした小説とプライバシーの権利の緊張関係をどう解いていくべきか。

公正なルールの適用で守られる個人の尊厳

2つのアプローチがあります。1つは、優れた小説では、読者の受け止め方において、「真実までもが虚構になる」という考え方、もう1つは、それとは逆に、優れた小説では、読者の受け止め方において、「虚構までもが真実になる」という考え方です。ミニ講義で取り上げた事件において裁判所は、先例を踏まえて前者の考え方に同調しつつも、この事件における読者のまなざしの特性に注目し、後者の考え方を採用して、プライバシーの権利の侵害を認めました。読者のまなざしの特性とは?ここでは詳しく触れることはできませんが、裁判所は、事案の特性を踏まえ、当事者のまなざしをしっかりと受け止めて、個人の尊厳を守るべく、ルールを使いこなしていることの一端をミニ講義でお示しすることができたのではないかと思います。

高校生へのメッセージ

Festina lente、開高健はこれを「悠々として急げ」と訳しました。決勝に臨む五輪選手に「勇気をもって、ゆっくり行け」という言葉をかけたコーチもいましたが、学ぶことの本質は、こうした言葉に集約されていると思います。

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