授業編

『姓』と『生』(食べもの)を通してみる文化人類学の見方、考え方

文芸学部 文化史学科

上杉 富之 教授

多様なオルターナティブ(選択肢)を提示する

文化人類学は、世界の様々な国や地域、民族の人びとが織りなす社会や文化の多様性(差異)と普遍性(類似)を明らかにし、それを基にしてより良い社会や文化のあり方を構想し、提示する学問分野です。ことばを換えて言うと、文化人類学は、異なった社会や文化に属する人びとが、私たちが直面している様々な社会的・文化的な問題に対していかに取り組んでいるのかという多様な事例(選択肢)を紹介し、解決のヒントを探るものと言ってもよいでしょう。

婚後の「姓」の選択

結婚後も夫婦がそれぞれ婚前の姓を使用することができる制度を「選択的夫婦別姓」と言います。最近の世論調査では、選択的夫婦別姓を認めても良いという人びとが過半数を占めています。それにもかかわらず、日本ではいまだに夫婦同姓(夫婦同一姓)しか認められていません。これに対して、社会的・文化的に日本と類似点の多い東アジアの中国や韓国は基本的に夫婦別姓です。一方、アメリカやイギリス、フランスなどの欧米各国では夫婦別姓の他、夫婦の姓の併記や連結、合成も可能で、場合によっては新たに姓を創り出すことも可能です。東南アジアのマレーシアに至っては、マレー系の人びとにはそもそも姓がありませんので婚後の姓は問題になりません。

「生」(食べもの)の選択

近年、注目を浴びている「生」(食べもの)の選択に、イギリスを発祥とする「エシカルフード」(ethical foods:倫理的な食べもの)という考え方があります。特定の食べものを禁止(忌避)するものとしては、イスラム教徒の豚肉の禁止やヒンドゥー教徒の牛肉の禁止がつとに有名です。また、宗教上の理由に加え、健康や環境、倫理問題などに配慮して肉や魚などの動物性食品を摂らず、穀物や豆類、野菜などの植物性食品のみを摂るという菜食主義も広まっています。これに対し、近年、環境問題や動物愛護、人権・労働問題、利益の公正な分配など、広い意味で倫理的・道徳的(エシカル)に正しい食べものを作り、売り、買って食べるというという新たな「生」(たべもの)の選択が提唱され、地球規模で広がりつつあります。

さらなるオルターナティブ(選択肢)の探究に向けて

婚後の姓や生(食べもの)の選び方だけを取ってみても、日本に限定せず、世界各国・各地域の異なった社会や文化に少しだけ視野を広げるだけで、私たちには実に多種多様な選択肢があることがわかります。文化人類学では、今、人間界だけでなく動植物界や自然界(環境)、物質界、さらには超自然的世界にまで視野を広げて私たちの生き方にさらなる選択肢を探り、提示することを試みています。

高校生へのメッセージ

みなさんは日々の生活の中で喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しいと思うことが少なからずあるでしょう。そこで一度視点を変えて(視野を広げて)、世界の様々な国や地域、民族の人びとはいったいどのように感じ、どのように対応しているんだろうかと考えるようになれば、それはもう立派な文化人類学です(だと思います)。まずは、なんでも良いですから、日々の生活の中で、しっかりと喜んだり、怒ったり、哀しんだり、楽しんでみて下さい。

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