ファウスト伝説とゲーテ
ドイツ文学といえば、ゲーテ(1749-1832)の『ファウスト』(第一部1808年、第二部1833年発表)が筆頭に挙がります。ファウストは16世紀前半に活躍した伝説の魔法使いで、彼が悪魔と契約を交わし、魔術でいにしえの英雄たちを呼び出し、絶世の美女ヘレナを伴侶とし、世界中をめぐり、悲惨な最期を遂げるといった面白いエピソード満載の伝説は、本や人形劇になり、人気を博しました。ゲーテは幼い頃からファウスト伝説に親しみ、長じて『ファウスト』の作品化に取り組みました。
道化=悪魔
ゲーテは『ファウスト』第一部の前に「献辞」、「劇場の序幕」、「天上の序曲」を置き、「劇場の序幕」に登場する道化が「天上の序曲」に登場する悪魔メフィストフェレスと同じ存在だとほのめかします。この道化=悪魔は、「天上の序曲」でファウストを誘惑する許可を主から得て、喜び勇んでファウストの元へ急ぎます。
悪魔との契約
悪魔メフィストフェレスは黒プードルの姿でファウストに近付き、死後魂をもらう約束で地上の楽しみを提供すると申し出ます。ファウストは「俺がある瞬間に、留まれ!なんて素晴らしいんだ!と言うとき、そうしたらおまえは俺を捕まえるがよい。俺は喜んで滅びよう!」(1699-1702行)という有名な台詞を言い、二人は契約を結んで冒険の旅に出ます。悪魔と契約を交わし、辺り構わず自分の欲望を叶えることに邁進する人間の最期はどうなるでしょうか?
四大精霊
ハイネの『精霊物語』によると、自然を構成する四大要素、地・水・火・風にはそれぞれ精霊がいて、悪魔は火の精に区分されます。精霊は魂を持たないため、人間に近付いて魂を欲しがります。美しい水の精が人間と結婚して魂を獲得する話(フケー『ウンディーネ』)も、悪魔が契約によって魂を得ようとするのも同じ構図です。ドイツ文学でしばしば描かれる、精霊と人間のやりとりは、日本の民話や昔話にも見られます。みなさんもご存じのお話と比較してみてください。