授業編

琵琶の名器「玄象」をめぐる音楽奇瑞譚
-能「玄象」を中心に-

文芸学部 国文学科

大谷 節子 教授

「心」を持った琵琶「玄象」

古今東西、名のある楽器には不思議な話があるものですが、今回は唐から日本へ伝えられた琵琶の名器「玄象(げんじょう)」(玄上とも書きます)をめぐる話をします。

「玄象」は、勅命を受けて唐へ渡った藤原貞敏が琵琶の名手である廉承武(れんしょうぶ)から譲り受けた三面の琵琶の一つで、撥面(張った弦に撥を宛てて音を出す部分)に黒い象が描かれていたために付けられた名とも伝えられていたようですが、鎌倉時代には既に撥面の絵は擦れて、何が描かれていたか定かではありませんでした。代々の帝に受け継がれたこの「玄象」は、楽器を粗末に扱う者や、技量が十分でない者が弾くと怒って鳴らなかった話や、火災で内裏が燃えた時も自ら屋敷を飛び出して無瑕であった話が示すように、人のような「心」を持った琵琶として伝えられていました。

名手が玄象を奏でることで起きる奇瑞

さて、貞敏が三面の琵琶「玄象」「青山」「獅子丸」を日本に運ぶ途中、海が荒れ、海中から現れた龍神が三面の内の一面「獅子丸」を龍宮へ持ち帰ってしまったという話が作られます。能の「玄象」では、最初に琵琶の名手である藤原師長(もろなが)が登場します。師長は琵琶の奥義を究めようと渡唐する途中、須磨の浦に立ち寄り、塩屋に宿を借りますが、塩屋の主は実は村上天皇の化身で、帝は玄象の琵琶を見事に奏で、龍神に命じて「獅子丸」を返上させ、これを師長に与えます。師長が琵琶「獅子丸」を引き鳴らすと、八大龍王は各々の楽器を以て管弦を始め、帝も琵琶の秘曲を奏で、帝と師長は龍馬に乗って帰洛します。

龍神の心をも動かす琵琶の音

ところで、藤原師長は能「玄象」において、「雨の大臣」の異名を持つことが紹介されます。これは旱魃(かんばつ)で人々が苦しんでいた際、神泉苑で雨乞いに琵琶の秘曲を奏でたところ、龍神が琵琶の音に感応し、雨を降らせたためです。優れた音楽は人の心を動かすのみならず、龍神の心をも動かし、民を潤す。中世では龍神が琵琶の音に感応して流す涙が雨だという解釈までが生まれます。琵琶の名器「玄象」が「世の伝はり物」「いみじき公財(おほやけたから)」(『今昔物語』巻二四)として重宝となった理由は、楽が持つこの不思議な力のためでした。

高校生へのメッセージ

買った本、図書館から借りた本を置く棚を確保するところから始めるのも一つの方法です。自分の思索を辿ることで思考が深まります。肝心なのは、本を読んで感じたこと、考えたことを書き留め、書き溜めていくことです。

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