民俗学は妖怪も研究対象
文化史学科では、歴史学・民俗学・文化人類学の立場から、ごく普通の人びとの暮らしの営みや文化の歴史的変遷を研究します。ここではほんの少しですが、私の専攻する民俗学の立場から、妖怪についてお話しさせていただきます。妖怪は不気味なもののようであり、しかしどこか魅力的で、不思議な存在です。学問の対象としては一見「ふまじめ」なもののようですが、実は、民俗学にとっては大切な研究対象であるといえます。
妖怪の三つの側面
では、妖怪からはどのようなことを議論できるでしょうか。小松和彦という研究者は、妖怪を、なんらかの出来事(現象-妖怪)を説明し納得するために人びとが考え出したもの(存在-妖怪)であると位置づけています。そのような妖怪たちにさまざまなビジュアルを与える文化も発展します(造形-妖怪)。
赤い河童?毛むくじゃらの河童?
そのようなビジュアル・メディアは既存の妖怪のイメージの変容にも作用しました。一例を示します。皆さんは河童をご存知でしょう。緑色で、ぬるぬるとした姿をイメージしませんか?ところが、地域によっては、河童は赤かったり、毛が生えた猿のような姿をしたりしています。つまり、河童にも地域性があったのです。それが現在は緑色で両生類のような像が一般化しています。これは19世紀に、出版文化の影響で関東の河童イメージが全国に拡大していった結果と考えられています。
民俗学は「変化」を調べ、「現在」を知る学問
民俗学は「昔の文化」を調べる学問と誤解されていますが、実態は、ある文化や暮らし方の現在に至るまでの「変化」を把握することを目指します。昔から同じ姿をしているかのような妖怪ですら、実は時代の影響のもとで変化してきました。そして、妖怪のみならず、私たちが「当たり前」だと思っているあらゆる物事は時代とともに変化しています。私たちにとって「当たり前」ななにかが、なんの影響で、どのように変化しながら現在のかたちをとっているのか、皆さんも一緒に考えてみませんか?文化史学科ではそのような学びを深めることができます。
参考文献
- 小澤葉菜2011「河童のイメージの変遷について―図像史料の分析を中心に」『常民文化』34
- 小松和彦2011「妖怪とは何か」小松和彦編『妖怪学の基礎知識』角川学芸出版
冒頭の写真
- 「水虎十弐品之圖」 出典:国立国会図書館デジタルコレクション