授業編

「当たり前」を疑う:国際社会学の視点から

社会イノベーション学部 心理社会学科

後藤 悠里 准教授

「社会科」とは異なる、社会学という学問

社会学とは何でしょうか。「社会」という言葉から、「社会科」を連想するかもしれません。しかし、社会学は、高校までの社会科とは異なり、多くの人にとって、大学で初めて学ぶ分野となります。その特徴は、人と人とのつながりに焦点を当て現象を分析していくという点にあります。たとえば、社会学の基礎を築いたエミール・デュルケームの『自殺論』は、カトリック信者とプロテスタント信者の自殺率の違いを、人と人とのつながりの強さから分析しています。自殺の原因は個人の動機で説明されることが多いのではないでしょうか。属する集団に着目して説明することは、私たちの当たり前とは少し異なる視点ではないでしょうか。社会学は私たちが当たり前とする考え方を疑う学問であるという点にも特徴があります。

国境をこえる現象に着目する国際社会学

社会学には、さまざまな領域があります。国際社会学もその一つであり、国境をこえる現象に着目します。従来の社会学が国民国家を前提(当たり前)としていたのに対し、国際社会学はこの枠組み自体を疑問視します。実際に、人びとは国境をこえて動いています。たとえば、増加する外国人旅行者、留学生などの存在を考えることができるでしょう。また、EUやASEANなどは国家をこえた共同体です。これらの現象は、国境に固く閉ざされた国家という前提から、一歩先に進める必要性を私たちに示しています。

評価基準の再考—事例から見る属性尊重を求める動き—

国際社会学の「当たり前を疑う」視点として、もう一つ付け加えておきましょう。現代社会においては、「誰であるか」(属性)よりも「何ができるか」(業績)で人を評価するという考え方が受け入れられています。しかし、世界を見渡すと、「誰であるか」を尊重してほしいとする動きも存在します。カナダのケベック州やスペインのカタルーニャ自治州の独立運動は、その典型例です。これらの事例は、属性を尊重する姿勢を持つことの重要性を示しています。

国際社会学の視点で、身近な現象の中に新たな発見を

身近な現象を国際社会学の視点から捉えてみましょう。オリンピックでの選手間交流、日本の法律における国連の影響、国連での人びとの交流などに、国家をこえたつながりや属性の尊重を見出すことができます。私たちの周りの現象を国際社会学の視点から捉えることで、日々の生活の中に新しい発見をすることができるようになります。

参考文献:
Durkheim, Émile, 1897, Le Suicide: Étude de sociologie, Félix Alcan.(宮島喬訳, 1985,『自殺論』中央公論新社.)
樽本英樹, 2016, 「国際社会学とは何か」西原和久・樽本英樹編『現代人の国際社会学・入門――トランスナショナリズムという視点』有斐閣, 2-18.

高校生へのメッセージ

ひとつの社会やある現象を丸ごと捉えたいとき、政治・経済・社会・個人という観点を使うことが有益です。社会イノベーション学部の4領域はこれら4つの観点に対応しており、社会や現象の全体像を捉える力を身につけることができる点が魅力です!

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