市場経済とイノベーション
およそすべての社会(家庭、企業、地域、国家、国際社会)には、合意形成の規範となるルールが必要です。しかし、社会の変化に合わせて規範を適応させていくことは、古今東西を問わず難しい課題です。そのような規範のひとつに、市場経済のルールがあります。市場経済とは何でしょうか。また、市場経済で展開される競争やイノベーションはどのような特徴をもつのでしょうか。
市場と競争の関係
市場とは売手と買手によって交換が行われる場のことです。ここでいう市場とは抽象的な場を意味します。まれに物々交換が行われることもありますが、ほとんどの市場では、貨幣を媒介として交換が行われます。一方、競争とは市場をよりよく機能させるものです。より安く商品を売ろう! より新しい機能やデザインを導入しよう! より低いコストで製品を作ろう! このように市場において買手と売手が互いを信頼できるように機能させているものが競争です。
市場の見えざる手とその限界
アダム・スミスは『諸国民の富』(1776)のなかで、国家による統制や干渉を排除し、自由な経済活動を保障することが富の源泉であると述べました。このような考え方を自由放任(レッセフェール)といいます。また、アダム・スミスは『道徳感情論』(1759)のなかで、市場の見えざる手(invisible hand)の働きによって経済は自ずから調整され、混乱や無秩序は回避され、社会は調和を保ち繁栄すると述べています。ただし、市場経済は他者への共感に根差したフェア・プレイの精神に従うべきであるとも強調しています。
イノベーションが目指すべきもの
市場経済が目指すべきイノベーションは、多くの市民(消費者)の苦しみや不安、不満や不便をできる限り解消することによって社会的価値を実現することに重きを置くべきです。そのためには、市場競争とともに、社会的弱者を含めた他者への共感がイノベーションの源泉となるべきだといえるでしょう。