私たちに起こったこと
コロナウィルスの感染拡大は、私たちの生活を大きく変えました。大学もたいへんな影響を受けました。私も対面での授業ができなくなり、講義を動画配信したり、心理学実験の授業をビデオ会議システム上でやったりしました。どれもこれも、初めての経験です。コロナウイルスの感染拡大は社会に深刻な影響をもたらしましたが、その一方で、私自身が経験したように、これまでにない新たな試みも多くなされました。なかなか広まらなかった在宅勤務もオンライン教育も、一気に拡大しました。
アメリカの心理学者ホルツマン(上の写真)
新しい自分になるのが発達
こうした新たな試みは、私たちの社会を大きく変える可能性を持っていると思います。パフォーマンス心理学というアプローチを先導するアメリカの心理学者ホルツマンは、今までの自分(Who you are)が、新しい自分(Who you are not)になることを発達と呼んでいます。だとすると、私たちは、今回の危機の中で発達することができたのではないか、と思うのです。なぜなら、私たちは、今までの自分にはできなかったことに挑戦しているのですから。
新しい自分になるには
こうしたアイデアは、アフターコロナの社会を考える上で、大きなヒントになるように思います。というのも、私たちは、アフターコロナという従来とは異なる状況のもと、今までの自分が持っていた限界を超えて、新しい自分になっていく必要があるからです。それでは、新しい自分になるには、どうしたらよいのでしょうか? ホルツマンは、演劇に注目しています。なぜなら、演劇では、今までの自分でありつつ、自分とは異なる役を演じるからです。
演劇で関係を作り直す
例えば、ホルツマンたちは、「警察官と子どものおしゃべり大作戦(Cops and Kids: Operation Conversation)」というワークショップを展開しています。これは、白人が多い警察官と、黒人の若者たちを同じステージにあげ、いっしょにゲームや即興のお芝居をしたり、対話したりしながら、相手のことを「白人」「黒人」ではなく、一人の人間として理解していくというものです。このとき私たちは、今の自分でありながら、新しい自分になっているのではないでしょうか。
新しい私を演じてみよう
新型コロナウイルスの感染拡大という状況のもとで、私たちはこれまで行っていなかった、さまざまなことに挑戦しました。そうすることで、私たちは、今の私でありながら、新しい私を演じることになっていたのだと思います。今までやってこなかったことに挑戦し、新しい私たちを演じることは、アフターコロナの社会の可能性を拡げることにきっとつながります。みなさんも、アフターコロナの世界で、新しい自分を演じてください。そうした挑戦が、新しい社会を生み出すはずです。