消費社会という視点から見る現代社会
私たちの生きる現代社会とは、どのような社会なのでしょうか。「豊かな社会」「情報化社会」「リスク社会」…など、現代社会を捉える視点には様々なものがありますが、ここでは「消費社会」という視点から考えてみることにしましょう。
T型フォードの生産停止への過程が消費社会のはじまり
W・W・ロストウは、経済成長の最終段階として「高度大衆消費時代」を考えました。この段階に最初に到達したのは1920 年代のアメリカだと言われています。この高度大衆消費時代の到来を示す出来事としてよく参照されているのは、アメリカにおける自動車産業の成功事例、すなわちフォード・モーター社の「T型フォード」の大量生産・大量消費という現象です。しかし、単なる大衆消費時代の到来ではなく、「消費社会」のはじまりを示す歴史的な指標は、むしろT型フォードがGM(ゼネラルモーターズ社)の新しい自動車生産・販売の戦略の前に敗北し、1927年に生産停止へと追い込まれるその過程にあります。
欲望の変化に対応し成功したGM
D・リースマンは、この「フォードの敗北」の過程を「アメリカにおける自動車」という論文のなかで分析しています。その分析によれば、T型フォードの成功自体が、もはやT型フォードでは満足できない豊かな市場を生み出し、自動車を、つくることよりも売ることの方が難しい商品にしたと指摘しています。つまりT型フォードの成功は、自動車を欲する人びとの願いを満足させるだけではなく、人びとの自動車に対する欲望のかたちまで変えてしまったということを意味しています。そしてこの市場における欲望の変化にいち早く対応したのがGMでした。
他の商品との差異も消費していく社会
GMは、「美と色彩の部門」という名の消費者の声に敏感に反応することができる組織に大きな権限を与え、「自動車は見かけで売れる」という考え方を自らの政策としていきました。そして消費者の多様な欲求に応じるため、商品の差別化、広告、年次的なモデルチェンジの採用、割賦信用販売の整備、中古車買い取り制度の導入などを押し進め、人びとの直接的な購買力の次元を超えて、自動車への欲望を創出し、操作する総合的なマーケティング・システムを展開していきました。その結果、T型フォードは生産停止にまで追い込まれ、フォードは競争に敗れたのです。GMの勝利を支えたのは、商品の限界差異(他の商品との差異)を求める人びとの欲望でした。消費社会とは、このGMの勝利に示されているように、たんに商品を消費するだけではなく、他の商品との差異を同時に消費する社会のことを意味しています。