「やる気」を心理学で分析してみる
ある物事に意欲的に取り組む人とそうでない人とは何が違っているのでしょうか。また、できる限り多くの人々が生き生きと物事に取り組めるような環境を作るにはどのような点に留意したらよいのでしょうか。——本講義では、「やる気」という身近な問題について心理学ではどのような分析がなされ、そこからどんな具体的な知見をひきだすことができるかについて考えていきたいと思います。
外発的動機づけと、内発的動機づけの違い
まず、外発的動機づけ、内発的動機づけという概念をご存じでしょうか。人が外発的に動機づけられているとき、その人の行動は、外的な報酬つまり「ごほうび」を得るための手段として行われています。一方、行動そのものが面白いと感じているとき、人は内発的な動機づけによって行動をしています。100点を取ってお小遣いを増やしてもらおうと勉強している場合には外発的な動機づけ、その教科が好きで面白いと感じて勉強している場合は内発的な動機づけ、ということになります。外発的動機づけの有効性は多くの人の認めるところのようです。ビジネスの現場でも、社員の働く意欲を引き上げるため、良い業績を上げた人には高い報酬をつける成果主義の導入などが行われてきました。
外発的動機づけは本当に有効?
実験として、A、B2つのグループに、発想の転換と創造性を必要とする、ある問題に取り組んでもらいました。2つのグループにこの問題を提示する際、Aグループには「解答に要する時間の平均値を知りたいのでご協力ください」、Bグループには「速く解答できた人には報酬を差し上げます」と伝えます。つまり、Aグループでは速く解答しても報酬はありませんが、Bグループでは、速く回答すると報酬がもらえるのです。この実験ではどちらのグループが速く問題を解くことができたでしょうか。
心理学で、自身の考えを深めていく
意外なことに、Aグループつまり競争条件でないグループのほうが優秀な成績を収めました。つまり、競争や外発的動機づけが、創造的な問題解決や柔軟な発想を阻害する可能性が示唆されています。このように内発的動機づけ・外発的動機づけの研究は、私たち自身のモチベーションの在り方を見直し、考えを深めてくれる興味深い知見にあふれています。