世界中の企業に求められる環境への投資とリスク管理
2015年にパリ協定が採択されて以降、世界の気温上昇を抑えるために温室効果ガス排出量の削減に向けて世界中の国々が様々な取り組みをしています。最近では、「脱炭素社会」(CO2排出量がゼロの社会)の構築という目標も出てきました。今や、企業には環境にやさしい取り組みや種々の排出物質の公開が求められ、自然環境(大気・森林・海等)の保全は「SDGs」の一つでもあります。
経済学で人や企業の行動をモデル化して分析する
CO2をはじめとする温室効果ガス、その他の汚染物質の排出によって自然環境が破壊され、それに伴って人間社会で生じる被害等を「環境問題」と呼んでいます。近年では、特に気象状況の変化(気温の上昇等)に起因する災害や人的被害については「気候変動問題」と名付けられています。問題群を経済学的な視点から分析する学問を「環境経済学」と呼びます。なぜ、環境問題等を経済学と結び付けられるのでしょうか、そもそも「経済学」とはどんな学問でしょうか? 実は、「経済学」(特に、ミクロ経済学)の根本的な目標は、「人々や企業の行動をモデル化し、説明・分析すること」にあります。簡単に言えば、消費者なら「自分の満足度が価格より高いなら消費する」、企業なら「生産費用(一つ作る時の費用)が価格より高いなら作る」というものです。たとえば、300円のパンをいくつ買うかを考えるとき、パンが好きな人でも3つ、4つ……とは買わないのではないでしょうか? これを、「3つ目のパンの満足度は300円より低いから買わない」という説明をするのが経済学です。ポイントは、「利益」と「費用」を比較する、ということです(言い換えれば、これらに含まれない要素は意思決定に関係しないと考えます)。
環境問題は、自由な生産や消費の中では解決されない
では、環境問題に目を向けましょう。工場の生産に伴って汚染物が排出され、それを川に流している状況を考えます(水質汚濁)。経済学の考えに基づけば、工場は汚染物を減らすことはありません。なぜなら、汚染物を減らしても、「生産費用」が低くなることはないからです。また、価格を上げることもできません。自由な生産・消費に任せていても解決することがないため、歴史的には政府が対策を実施してきました。
経済的なメリットが人や企業の意識を変える
汚染物質や温室効果ガスの排出量を削減してもらう政策には、様々なものがあります。歴史的には、汚染物の原因となる技術や設備の使用を禁止するといった直接的なものから、より経済学的な視点から作られた政策もあります。たとえば、「炭素税」は、温室効果ガスの排出量に応じて税を徴収する(それにより、生産費用に反映させる)ものです。消費者の生活に関連するものとしては、「レジ袋の有料化」政策があるでしょう。日本を含む世界の国々には、多くのユニークな政策があります。もし「環境経済学」に興味を持ってくれたら、皆さんも調べてみて下さい(経済学の勉強にもなるはずです)。