国際法は「法」ではない?
ロシアによるウクライナ侵攻では多くの国際法違反が生じました。国際関係における武力不行使・侵略禁止という国際法の重要ルールが踏みにじられ、武力紛争において捕虜・傷病者・文民を保護するために作られた国際人道法が無視され、核使用の威嚇と隣国への核兵器配備により核不拡散条約が危機に陥ったなど、枚挙に暇がありません。他方で、「ほとんど全ての国はほとんどの場合、国際法の諸原則のほとんど全てとその義務のほとんど全てを遵守する」(L. Henkin)というように、意外にも、国際法の多くは日々遵守されています。
国際連合(国連)は無力・無用?
こうした事態に対処する広範な権限を与えられた国連の安全保障理事会は、常任理事国であるロシアの反対によって有効な制裁措置を発動できずにいます。ただ、ロシアはその反対によって国連憲章に違反しているわけではありません。常任理事国には自国に不利となるような決議を葬り去ることができる「拒否権」が認められているからです(憲章第27条3項)。この特権がなければ、国連にソ連(現・ロシア)が加盟することは叶わず、国連自体が創設されていなかったかもしれません。ただ国連には別の機関もあります。たとえば国連総会はロシアの行為を「侵略」と認定・非難する決議を採択し、国際社会の総意を示し、また多くの国連機関が緊急人道支援を実施しています。国際司法裁判所でもロシアに対する訴訟が係属中です。
ウクライナ支援は当然合法?
欧米諸国によるウクライナへの軍事支援については、その法的正当化を巡り意見が分かれています。①当該支援は交戦国を平等に扱う「中立法上の義務に違反する」、②そもそも戦争を違法化した国連憲章と相容れない「中立法はもはや無効」、③侵略国と犠牲国とを平等に扱うことこそ戦争違法化と国連憲章の趣旨に反するため、支援は「中立法上の義務違反を構成しない」、などです。集団的自衛権(憲章第51条)を行使して別途正当化することも可能ですが、ロシアと戦争になることを懸念し、この根拠は用いられていません。法的に曖昧であることが理(利)に適っている場合もあるのです。
国際社会の構造と実態を反映し、変化する「法」
世界政府が存在せず、各国が主権を有する国際社会では、国際法の解釈適用もまた当事者に委ねられる側面が強く、国連が創設されてもなお、ある行為が法に触れるかどうか不確定な状況は生じます。主権の放棄を伴う以上、この状況を解消することは容易ではありません。したがって、ある国の行為が国際法に違反したとみられるのであれば、他国や国連、そして私たち市民がそれを声高に指摘し、国際法が国家の行動を規律する機会と効果が醸成されていくように努力し続けていくことが、人類にとって重要なのかもしれません。
※2枚目の画像:環境に関する国連総会会合 著作者:アジェンシア・ブラジル
CC 表示-4.0国際 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:UN_meeting_on_environment_at_General_Assembly.jpg による