授業編

納涼・メディア論

文芸学部 マスコミュニケーション学科

新倉 貴仁 准教授

キーワード

「メディア」をめぐる少し怖い話

みなさんはマスコミュニケーションというと何を思い浮かべますか? テレビ、新聞、ラジオ、インターネットなどではないでしょうか。これらは、日々、私たちにさまざまな情報や娯楽を提供してくれます。同時に、テレビ、ラジオ、インターネットなどは技術の名称でもあります。このようなコミュニケーションを可能にする技術やモノを「メディア」と呼びます。今回はこの「メディア」をめぐって、少し怖い話をしてみたいと思います。

ホラー映画で重要な仕掛けとなった「メディア」

日本のホラー映画に、中田秀夫監督の『リング』(1998)という作品があります。ハリウッドでリメイクもされ、世界的に評価されています。作品自体は観たことがなくとも、テレビから出てくる白衣を着た長髪の女性のイメージを知っているかもしれません。この映画は、1991年の鈴木光司原作作品の映画化ですが、それを観た人が一週間後に死んでしまうビデオテープをめぐる物語です。ここではビデオテープという「メディア」が呪いという人間の理解を超えたものを記録してしまうという設定になっています。

カルト的人気を誇る映画でも

このようなホラー映画で使われる「メディア」ですが、実は多くの先例があります。その一つとして、内田百閒の「サラサーデの盤」(1948)という小説があります。こちらは鈴木清順監督によって『ツィゴイネルワイゼン』(1980)として映画化されています。物語は、大正期で、語り手の死んだ友人の妻が訪れてくるところから始まります。死んだ友人は語り手にサラサーデの「ツィゴイネルワイゼン」というレコードを貸していて、遺品としてそれを取りに来たのです。このレコードには録音時のミスか、途中に話し声が入っていて、語り手もよく覚えていました。その時には見つからなかったのですが、物語の後半、語り手はそのレコードを死んだ友人の妻に返します。実際にかけてみると、その声のようなものが響き、それに死んだ友人の妻が応答します。死んだ友人と会話を交わしているのです。

新しい「メディア」の登場が、想像力を刺激

ここには「メディア」を通じて死者との対話が描かれます。大正期は、映画、蓄音機(レコード)、ラジオなど新しいメディアが急速に人びとの日常に入り込んでくる時代でした。そのような「メディア」は人々のコミュニケーションの能力や範囲を大きく変えていきます。そのとき、人の知覚可能性を超えた死の領域との交信も可能になるという想像力がふくらんでいったのです。私たちが生きる現代社会においても、スマートフォンやSNSなど新しい「メディア」が登場し、コミュニケーションを劇的に変えています。そのような変化が人々の想像力をどのように変えているのか、そういったことを考えてみると面白いかもしれません。

高校生へのメッセージ

小説、映画、展示、漫画、テレビ番組など、高校生のうちから、好奇心をもって貪欲に楽しんでください。研究の手がかりがたくさん隠されています。

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