授業編

リスクに対する感じ方・捉え方のクセ:リスクとメディアの心理学

文芸学部 マスコミュニケーション学科

山内 香奈 准教授

キーワード

発生頻度に関する私たちの直観

いきなりですが、火災と溺死では、より多くの人が亡くなっているのはどちらだと思いますか?正解は“溺死”です。2009年に厚生労働省が発表した不慮の事故の種類別にみた死亡数の統計(平成7~20年)では、火災による死亡者数は、毎年1,300人から1,600人の間で推移しているのに対し、溺死による死亡者数は、毎年5,500人から6,500人の間で推移しています。

メディアの影響

このような統計的事実に反して、火災よる死亡者の方が多いと思った人は多いのではないでしょうか?その理由は、溺死よりも火災による死亡を伝える情報の方がテレビや新聞などのメディアで報じられる頻度が高いためと考えられます。メディアは、より珍しいもの、よりインパクトが強いもの、よりセンセーショナルなものをより多く伝えます。メディア社会に生きる私たちは、直接体験することなく、メディアを通して、いろいろなことを間接的に知るため、メディアが何をどれだけ伝えるかということが、我々の現実認識(社会的リアリティと呼びます)を大きく左右します。

我々の感じ方・捉え方のクセは多重に働く

我々は、思いつきやすさ、思い出しやすさで、発生頻度を判断するクセがあります。それを「利用可能性ヒューリスティック」と呼びます。そのため、メディアの偏った報道により、知らず知らずのうちに、社会のリスクの発生頻度を大きく見誤ってしまうことがあります。そしてまた、私たちは、「確証バイアス」と呼ばれるクセも持っています。これは、自分にとって都合のいい情報ばかりを無意識のうちに集めてしまい、反証する情報を無視したり集めようとしなかったりするものです。

リスクから身を守るために必要なこと

そのため、メディアの偏った情報から、事実とは違う思い込みを一旦、持ってしまうと、それに沿った情報ばかりに目が向いてしまい、一層、事実とは異なる認識を深めてしまう恐れがあります。今、私たちは新型コロナウィルスという未知の感染症というリスクと日々戦っています。そうした時期だからこそ、リスクに対する私たちの感じ方や捉え方のクセを正しく知り、身を守るために必要な判断や行動を見誤らないようにすることが大切です。

※冒頭のクイズは山田・川端・加藤(2021)を参考にしています。

高校生へのメッセージ

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