月のウサギで考察する日中交流
古代の日本と中国の間には交流があったことはよく知られています。古代の日中交流というと、律令制度・仏教などが知られていますが、それだけではなく、私たちの身近にも中国からの影響がみられます。ここではウサギをテーマにして、考えてみたいと思います。
古代中国の世界観から生まれた月のウサギ
中国湖南省長沙市で、前漢時代前期(今から2100年前)の貴族夫妻を埋葬した大型墓が発掘され、夫人の墓からは絹の布に画かれた絵が出土しました。この絵には亡くなった夫人が天上世界に昇って行く姿が描かれており、遺族の死者に対する願いが込められていたと考えられています。そしてこの絵の最上部に太陽と月の画像がありました。
太陽と月の中には、いずれも動物が描かれていました。太陽の中には鳥がいますが、これはカラスと考えられます。月の中にはウサギとガマがいます。古代の日本人は、「太陽や月に動物がいる」といった古代中国人の世界観に触れ、それを取り入れました。しかしカラスやガマなどは定着せず、ウサギのみが残ったと考えられます。ただ、この絵の中のウサギは餅をついてはいません。
餅つくウサギは日本人の感性から
ウサギの餅つきを考えるためには「西王母(せいおうぼ)」と呼ばれる、中国の西方に住むと考えられていた女神が関係します。西王母は不老不死の薬をもつ女神であり、また亡くなった人が天上に昇ることを助ける存在でした。そのため漢代には西王母への信仰が広まりました。
西王母には動物の家来達がいて、その中にはウサギもいます。西王母の家来のウサギは多くの場合、杵をもち、臼をついている姿で描かれており、薬を作っていると考えられています。つまりウサギは中国では西王母の家来として薬を作るために臼をついていたのですが、この画像を見た古代の日本人は、自らの生活にひきつけ、餅つきに変えてしまったと考えられます。
日本の伝統文化の中にある中国文化
今回取り上げたウサギのように、中国の文化に触れた古代の日本人達は、それを選択、あるいは変容させて、日本文化の中に定着させていきました。このように現在の私たちが漠然と「伝統文化」と考えているものの中には、中国にその源流を探すことができるものが多く存在しているのです。