宇宙に響く「聞こえない音楽」
「大切なものは目には見えない」—『星の王子さま』の有名な言葉ですね。ものごとの本質は心で見るしかないというのです。耳で聞く音楽についても、同じような考え方が古代のギリシャにありました。宇宙に、人間の耳には聞こえないほどすばらしい音楽が響いているというのです。「天体の調和」、「宇宙の音楽」のような名で呼ばれました。
ところで、ギリシャ人は音楽を数の仕組みで説明する、高度の理論を打ち立てました。すると、理屈好きな彼らが、その「聞こえない音楽」をいろいろなしかたで説明したのも不思議はありません。
音楽と天体運行の間に対応関係を見出した天文学者
紀元後2世紀の天文学者プトレマイオスは、たとえば太陽が日の出から南中まで天を上昇し、その後日の入りまで下降することを、メロディの上行・下行になぞらえました。これだけを見れば、子どもの思いつきのようですが、彼は古代随一の天文学者らしく、他にもさまざまな対応関係を音楽と天体運行の間に見出し、宇宙の構造と音楽の構造が等しいことを証明しようとしました。
人間の音楽は宇宙の音楽の象徴
プトレマイオスが天動説に立っていたのに対して、約1500年後の天文学者ケプラーは、地球が太陽の周りを回っているという地動説を確立しました。この人はおもしろいことに、プトレマイオスと同様「宇宙の音楽」を信じ、それが実在することを実証科学的に説明しようとしました。このように説明のしかたは異なりますが、いずれの学者も人間の繰り広げる音楽が、それ自体で完結しているのではなく、大きな宇宙の音楽を象徴していると考える点で一致しています。
あなたも聴いているかもしれない「聞こえない音楽」
あなたは音楽を聴いて、自分の殻が割れて解放されるような感覚を体験したことはありませんか。あるいは、音楽を通じて、何か大きなものに触れているような思いを抱いたことはありませんか。もしそうだとすれば、あなたも耳に聞こえる音楽を通じて「聞こえない音楽」を聴いているのかもしれません。