妻を追いかけ黄泉の国へ
日本最古の歴史書『古事記』には、このような神話があります。イザナキの神は、お産で死んでしまったイザナミを、黄泉の国まで追いかけて行きました。しかし「決して私を見ないで」という妻の約束を破り、恐ろしく変わり果てた姿を見てしまいました。イザナキは逃げ出し、妻は怒って追っ手をかけました。イザナキは、黄泉の国と生の国との間にある「黄泉平坂(ヨモツヒラサカ)」の出入口を大きな岩でふさぎ、逃げ切ることができました。
妻は子を残し海の国へ
このような神話もあります。ホヲリノミコトは海の世界を訪れ、海神の娘・豊玉姫(トヨタマビメ)と結婚しました。夫がもとの国に帰った後、身ごもっていた豊玉姫は、夫のいる陸地にやってきて出産をしました。ホヲリノミコトは、「見ないで」という妻との約束を破り、小屋の中をのぞくと、大きな「ワニ」(サメのことかと言われています)が出産をしていました。正体を見られた豊玉姫は、子供を残し、海の世界と陸の世界をつなぐ「海坂(ウナサカ)」を閉じて、海の世界に帰っていきました。
「さか」でつながっていた二つの世界
この二つの神話には、似ている点がいくつかあります。夫たちは「見るな」という約束を破り、妻と永遠に別れることになりました。また、夫と妻の世界は、「黄泉平坂」と「海坂」という「さか」でつながっていましたが、禁を破ったために、閉じられてしまいました。これらの神話は、もともとは「さか(=さかい・境界)」でつながっていた二つの世界が分断され、行き来ができなくなってしまった由来を語っています。
さまざまな角度から読み、答えを見つけに行く
『古事記』は、天皇家の歴史を伝えるために編纂された書物です。イザナキの神もホヲリノミコトも、天皇の祖先として語られています。しかし、神話や伝説は、歴史としてだけではなく、さまざまな角度から読むことができます。「さか」とは何か?「黄泉の国」とは何か?なぜ「見るな」と禁じられるのか?大学の勉強ではたくさんの疑問を持ち、その答えを見つけに知の旅に出かけてほしいと思います。