現在の指導教員である松田美作子教授に出会ったのは、高校3年時にまで遡ります。当時、高校生を対象にした科目等履修生制度で受けた授業を松田先生が担当されていました。イギリス文学を専門とされる先生からウィリアム・シェイクスピアの『ヴェニスの商人』の講義を聞き、400年以上も前の作品でも現代の私たちに通じる、時代を越えたスケールの大きな力を持つことに心を動かされたことを覚えています。大学院への進学は、大学1年次の頃から考えていました。そのため、学部生時代はシェイクスピアを中心に初期近代研究の基礎知識を身につけ、シェイクスピア劇に登場する異人のユダヤ人をテーマとする卒業論文に励みました。修士課程でも引き続き松田先生に指導していただき、卒論研究を土台に、先行研究が論じてこなかった視点と主張を立てて、より自分らしい論文を書き上げることを目標に進学しました。
大学院の研究で求められることは、研究者の卵として「これを研究している」という意識と、テーマや主張に対するオリジナリティです。数ある先行研究の後追いではなく、ほかの研究者が目を配ってこなかったこと、足りなかった視点、どの論にどのような見直しが必要かを丹念に探った上で、独自性のある発想と成果が期待されます。このことに気づいたのは、学部生時代、卒業論文に取り組んでいるときでした。シェイクスピア研究は世界中の大学で行われており、私の卒論テーマだったユダヤ人研究も100年以上の歴史があるテーマです。このテーマを修士論文でさらに追究する余地が少ないと考え、外国人や異国の地というところにヒントはないか先生と相談しながらテーマを探っていきました。そして、シェイクスピアの2作品で舞台として登場する古代都市の遺跡エフェソスが、劇の筋や内容、登場人物の思想、態度にどのような影響を与えているのかを考える、シェイクスピア作品と東地中海の地域にまつわる研究およびエフェソスに関わる歴史・政治・経済についての研究に取り組むことを決めました。
修士論文のテーマにたどりつくまで約1年かかりました。しかし、先行研究を整理し、自分らしい論文を設計するのに欠かせない時間だったと思います。学部生の頃から、先生にシェイクスピア学会や研究会に連れていってもらい、さまざまな研究を見聞きしていたことも役立ちました。エフェソスという地は、シェイクスピアの時代はすでに廃墟で、同時代のほかの作家の作品にもほとんど登場しません。だからこそ、なぜシェイクスピアがその地を舞台に取り上げたのか、シェイクスピアの独自性について論旨を展開できると考えています。成城大学大学院のよいところは、少人数なのでたくさんの先生方に時間を取って教えていただける点です。研究は自分自身で進めるものですが、幅広い研究分野の専門家である先生方からのアドバイスは、新たな発見や思いがけないアイデアの創出につながることもあります。そんな恵まれた環境で研究ができる大学院だと思います。将来は研究職を希望しているので、論文執筆の実績も積んでいきたいです。
※記事内容・写真は2024年取材時のものです。